私がスウェーデンの「システム」に入るまで 〜大学院合格から銀行口座開設まで〜

2021年8月からスウェーデンの首都ストックホルムのとある大学でPhDプログラムを開始しました。

本記事では、渡航前から始まり渡航後にも待ち受ける各種事務手続きについて、私の経験を共有したいと思います。

ちなみに、私のプロフィールは以下の通りです:

  • 年齢:20代
  • 独身(単身での渡航
  • 目的:こちらのPhDプログラムへの留学
  • 前住地:東京

各種手続きについては、他の方もブログやSNS等で共有されているかと思いますので、あくまで2021年に留学を開始した私の経験についてご紹介したいと思います。

Stockholm

PhDプログラムへの合格と各種書類の到着

プログラムからオファーをもらい、それを承諾して留学先が決定したのが2021年3月末。そこから、しばらくは音沙汰がありませんでしたが、(おそらく合格者が確定した)4月初旬にプログラムのDirectorから「非スウェーデン人のための家に関する情報」や正式にサインされたオファーレターがメールで届きました。そうした書類で「家の申請」と「ビザ(居住許可)の申請」をせよとの内容です。ただし、ばたばたしていたこともあり、結局申請したのはGW中の5月頭でしたが。

家の申請

これを読まれている方はご存知かもしれませんが、ストックホルムの抱える問題の一つが家やアパートを見つけ契約することの難しさ。渡航前の最大の懸案事項といっても過言ではありません。

プログラムのDirectorからは、学生 specific な選択肢として提示されたのは以下の通りです:

  1. 大学の寮:多くが大学のキャンパスの近く(一部キャンパスから遠いところもあるため注意)。ただし、契約可能期間は最長でも「1年」。
  2. SSSBでアパートを探す:学生のためのアパート等を提供しているサービス(建物等を所有しているわけではない。仲介管理会社のような立ち位置?)。サービスへの登録日からの日数がポイントとなり、そのポイントを使ってアパートへの申請を行うという仕組み。高いポイントほど良い?アパートにありつける?(未確認)。サービスへの正式な登録にはこちらのStudent Unionのメンバーになる(学籍の証明が必要)必要がある。ただし、Student Unionのメンバーになる前でもサイトにメールアドレスを登録することで最大90日間分のポイントは貯めることができる。メンバーになる前のポイントはそのままだとサイト登録後91日目に自然消滅するため、90日目(かそれ以前)にサイト上で「一時停止」のような手続き(ボタンを押すだけ)を行う必要がある(私の現在のルームメイトの一人はこの一時停止をしなかったため、90日分のポイントを失った…)。

ポイント制のためSSSBが実質的に利用可能になるのは少なくとも渡航後しばらくしてからしてという事情があるため、それまでのつなぎとして大学寮が提供されているのかなという認識です。

他にも学生以外の一般の方も利用する仲介サイト等を頼りにするのも選択肢かとは思います。ただ、同期の留学生は基本的に大学寮に住んでいます。

大学寮は立地の良い場合が多いこともあり、共同フラットでも部屋の広さによっては家賃がそれなりにします(私もキッチン・トイレ浴室を4人で共用するフラットに住んでいますが、4人の中で一人だけ謎に2万円以上高い家賃になっています…)。

結局、5月の頭に大学寮への申請を行いましたが、申請時期が遅れた理由の一つは、申請時期に関する私の勘違いです。「留学生のAccommodationへの申請受付開始しました!」といった内容の投稿が大学のSNSで例年5, 6月頃?なされていたため、てっきり受付開始時期があるのかと思っていました。しかし、実はPhD学生はポスドクや海外からのGuest Researcherと同じスキームで寮の申請がなされるということ、そしてそれには特に受付時期はないこと(年中受付)だったことが判明し、遅ればせながら5月頭にやっと申請作業を行った次第です。

Residential Permit(居住許可)

こちらもばたばたしていた関係で申請が5月頭になってしまいました。私は「Residence permit for doctoral studies」という枠?で申請を行いました。

提出書類は(おそらく)パスポート、オファーレター、プログラムが用意した学生に関する追加の説明書類(in スウェーデン語)、プログラムが用意したPhD学生の給与額に関する書類等を提出しました。

申請では、「Describe why you have chosen these studies (state the benefit you expect to gain from the studies)」などをきちんと記載する必要があるとどちらかのブログで拝見したため、なぜストックホルムの〜〜なのか、ということを説明しました。

ちなみに日本人は申請手数料は無料です。ありがとうございます。

私はラッキーでしたが、人によっては追加書類等の提出を要求されるようなので注意しましょう。時間がかかります。

居住許可が下りてから

居住許可が下りたのは結局渡航直前の7月末。危なかったです。日本といくつかの国は基本的にビザ無しで入国できるため、その他の国と異なり、居住許可が下りた書類だけが在日本大使館から届き、その書類を持って入国します。実際には指紋と顔写真を撮影して居住許可証のカードを作成するのですが、日本人は在日本大使館ではなくスウェーデン国内の移民局のOfficeに行って、そこで申請・作成を行います。

ここで重要なのは、居住許可証申請のためにはアポ・予約を取る必要があること。スウェーデン移民局のウェブサイトにアクセスし、そこで「Have your fingerprints and photograph taken」という目的のもと予約を取ります。 特にストックホルムなどでは予約枠が非常に限られているため、できるだけ早めに予約をとりましょう。予約時にスウェーデン国内で使用できる電話番号の入力が必要ですが、なんとかなるのであれば渡航前になんとかして予約しましょう。 今思うと、居住許可が下りた連絡が来る前に予約枠がオープンになる目安等を先に把握しておいてもよかったかもしれません。

かく言う私は、居住許可が下りた書類が来たことで油断し、渡航直前に予約の必要性を認識し、結局スウェーデン到着後にこちらでSIMカードを調達して電話番号をゲットしてから予約するハメになりました。

どうやら予約可能枠は毎週月曜日の朝10時頃?にウェブサイト上で公開されるらしく、早い者勝ちのためがんばりましょう。私の場合は、スウェーデン到着が火曜だったこともあり、ストックホルムのOfficeではその次の週の予約も全て埋まっていました。ウプサラのOfficeではその次の週の枠が空いていたため、結局居住許可証申請のためのウプサラへのプチ旅行を敢行することとなりました。

居住許可証は家までの郵送が可能(下のID cardと異なり)で、大体10日〜2週間程度で無事届きました。

Personnummer (personal number / 個人番号)

スウェーデンで生きるために絶対に必要なもの、それがpersonal numberです。居住許可証が届かないと申請ができず、また申請から発行までストックホルムでは最低でも2週間程度を要するため、許可証が届き次第申請に行きましょう。

申請自体は、Skatteverket(スウェーデンの税務署・庁)のウェブサイト上で必要事項を入力し、それを「印刷」して税務署に持参、番号札をもらって自分の番が来たら他の書類(パスポートや居住許可証、また留学に関する書類等)をともに提出します(ウェブサイト上ではなく、Officeにいってから記入することもおそらく可能です)。

ここで重要そうなのが、どういった書類を一緒に提出するか、ということです。私はほとんど何も考えていなかったため、パスポート・居住許可証・大学からのオファーレターだけを提出しました(そして何事もなくPersonal numberを取得しました)。しかし、どうやら(居住許可証と同様に?)申請書類をさばく担当の人によって見られるポイントが異なるらしく、同期の留学生でも学籍登録の証明や「5年間プログラムにいるという証明を出せ」と追加書類を申請後に求められるケースがありました。

私は(こちらもラッキーなことに)2週間と数日ほどで自宅にPersonal numberが記載された書類が郵送されてきました。この期間にも個人差があり、知り合いのメキシコ人は4ヶ月かかり、インド人は申請後2ヶ月が経過してもなお音沙汰無しの状況です。これはもう、一市民としては祈るしかできません。

ID Kort (ID Card)

スウェーデン居住のための最後の関門とも言うべきステップが ID Kort (ID card) の申請・取得です。

Personal numberはスウェーデンでの生活のために必要ですが、十分ではありません。例えば後述の銀行口座開設でも、原則的にPersonal numberだけでは開設ができずID cardの所持が求められます。

このように重要なID cardですが、こちらもまた税務署に行って申請する類のものです。しかし、Personal numberと異なり、ウェブサイト上での事前の予約の必要があること、一税務署あたりの予約枠が少ないこと、ID card申請手続きが可能な税務署が少ないこと(全ての税務署が行っているわけではありません)があり、特にストックホルムでは予約が困難です。例えば、私がPersonal numberを取得した9月上旬の段階で、ストックホルムのOfficeは10月末まで予約が埋まっており、待ってストックホルムで申請するか、予約枠が比較的空いている別の町に行って申請するか、難しい決断を迫られました(居住地区に関係なく、申請手続きを扱っている税務署ならどこでも申請ができます)。 私は結局銀行口座開設や給与支払いのために早い方が良いと考え、9月末に予約が可能であった Eskilstuna という町に行くことにしました。

Eskilstunaストックホルム中央駅から電車 (SJ) で片道1時間ほどのところにある町です。観光地という感じではなく、落ち着いた美しい町でした。ただ、帰ろうとしたところ不具合で電車が止まっており、2時間ほど余計に待たされました(帰れてよかった)。

ID cardの申請時にはパスポートや居住許可証だけでなく、事前に400 kr の申請料を振り込んだ証明を持参する必要があります。振込は色々方法があるようですが、私は同期のスウェーデン人に自分の口座から税務署指定の口座に代わりに振り込んでもらいました(備考欄に私のPersonal numberを記載)。申請時に振込記録を確認されます。

ID cardの申請は、居住許可証等での個人の確認をした後、個人識別のためらしい「身長」の計測があり、最後にID card上に載る写真の撮影と署名を行う、という流れです。(多くの読者には関係ないかもしれませんが)この「身長」というのが曲者らしいです。パスポート等に記載されている身長(日本ではありません)や居住許可証申請の際に口頭で伝えた身長が打ち間違え等で、ID card申請時に計測した身長との間で一定以上の差があると、追加手続きが必要らしく、数週間単位で追加時間を要するようです。 私の同期でも少なくとも2人はこの問題で引っ掛かり、一人は8週間追加でかかると言われたそうです。

ID cardは自宅までの郵送はできないため、税務署に取りに行く必要があります。ただし、申請したところとは異なる税務署までは郵送してもらえるらしく、私は最寄りのストックホルムのOfficeまで送ってもらいそこで受取を行いました。少し離れた地域で申請をしても、取りに行く必要はなさそうです。

私の場合、1週間でID cardを受け取ることができました。同じ時期に申請していたドイツ人同期も1週間でゲットしていました。

Student Union 入会

PhD学生は大学に雇用されている被雇用者であると同時に学生でもあります。ですので、学割等のBenefitも享受することができますが、そのためには大学等のStudent Unionに所属する必要があります。

例えばストックホルム内のバス・電車等を運営するSLのチケットを学生価格で購入するにはStudent Unionに所属するとアクセスできるカード(スマホアプリ内で表示が可能)を保持する必要があります(厳密には、購入自体はカードがなくてもできますが)。

私はてっきりPersonal numberが入会のために必要だと思っていたのですが、Personal number無しでも(Personal numberのない学生に対して)大学内でのみ有効なT-numberというものを使えば入会できました。上述のSSSBへの登録はStudent Union入会後に(同じEmailアドレスをたどって)自動でなされるため、早く気づいていればもう少しSSSBのポイントが稼げたのに…と後悔しています。

銀行口座開設(& BankID の取得)

PhD学生は大学等からの給与や奨学金等を原則もらうものかと思いますが、そのために(私の場合は)スウェーデンでの銀行口座が必要でした。 この銀行口座開設も難関ポイントの一つです。

銀行口座開設には原則として ID cardが必要です。しかし、ID cardを取得するのに数ヶ月かかる…ということで、SEB等一部の銀行では、ID cardなしでも一時的な形で口座を開設、ID card取得後に正式な口座へ移行、ということが可能だそうです。ただ、これも支店等によって対応が異なるらしく、留学生の多い大学の最寄りの支店はこうした対応をしてくれやすいとのことでした。しかし、今年はPandemicの関係でSEBの最寄りの支店が利用できなくなっており、またストックホルム中心部のSEBの支店はいずれも「Personal numberなしでの口座開設のためのアポ」が2ヶ月先まで取れないという状況でした。

それまで貯金だけで食っていくのはなかなか厳しい、ということで、同期の学生達が色々な手を打ちそれを教えてくれた結果、私は「Danske Bank」のインターネット上での口座開設手続きに挑戦、最終的には(ID cardなしで)成功しました。

具体的には以下のようなスケジュールで開設作業を行いました。ID cardを持っていればこんなに時間はかからないようなので、そこは難しい判断です。

  • 9月上旬にDanske Bankのスウェーデンの方のページで口座開設のためのフォームを記入しネット上で申請
  • その1週間ほど後にメールで、追加書類(認証されたパスポートのコピー、及びTax agreementに関する書類)を要求されたためそれらを用意し郵送。パスポートのコピーのCertificationは、ストックホルム市内のNotary Publicで行いました。200 kr. 在スウェーデン日本大使館にメールで聞いたところNotary Publicを使ってくださいとのことでした。
  • その1週間ほど後に郵送で書類が到着。全てスウェーデン語で、具体的な口座に関するオプション等の選択、そして署名を行い郵送。
  • その1週間ほど後に(BankIDがない人用の)コードボックスや口座番号が記載された書類、その他のその後の手続き方法(ウェブでのPINコードの登録方法)などが郵送で届く。申請したデビットカードも別で届く。頑張ってネット上で最後の作業を行い、口座開設作業完了。

といった流れで、なんだかんだ申請から1ヶ月程度かかり、10月上旬に口座開設することができました。ID cardはこの時点ではありませんでした。

ただし、個人の認証等に使われる「BankID」はID cardがないと取得することができないらしく、ここは注意です(なくても郵送されてきたコードボックスでなんとかなる部分はありますが)。結局、ID cardが届いた後、Danske BankのウェブサイトにID cardのスキャンPDFをアップロードし、10分後にBankIDが発行されました。

ちなみに、デビットカードはウェブサイト上でActivateする必要がある、Amazon等のオンラインストアで使うにはそれを許可するようにウェブサイト上で設定する必要がある、というは念頭に置いておきましょう(後者をしていなかったため、オンラインストアの支払いができなかったことがありました)。

ということで私は結局Danske Bankで口座開設をしたわけですが、他の同期はICAの学生用銀行口座を開設した人もいたようです。同じ時期に(ID cardなしで)Danske Bankに申請した同期でも結局音沙汰がないという人もいるので、選択肢を確保しておくことは大切そうです。

スウェーデンのシステムは入れば楽だが入るのが楽じゃない

以上のように形で私はスウェーデンのシステムに入ることができました。 口座開設が済み、やっと大学からの給与・奨学金の振込がなされたため、SEKで生活することができるようになりました。ここまで、渡航後2ヶ月ほどを要しましたが、それでもかなり早い方でした。特にPersonal number・ID card申請周りはどうしようもなく時間がかかってしまう場合があることを念頭に置いておきましょう。

おそらく一番大事なのは、余裕のある心持ち(と貯金)でしょうか。 なかなか外国人一人では変えることができないこうしたシステムですが、こうした事務手続きの中で待ち受けている大変さも受け入れる余裕、もしくは「諦め」を持つことができれば無用なストレスから自分を守ることができるのではないかと思います。